bizFlagGTM・営業戦略

アポを取ることをゴールにすると、GTMは失敗する

匂いを検知して可視化するサービスの営業経験から、アポ数ではなく、喜んで使い続けてくれる顧客を見つけるGTMの考え方を整理します。

センサーとデータでつながる大規模施設のイメージ

この記事のポイント

  • 技術として面白いことと、顧客が今すぐ解決したいことは違う
  • 商談化しなかった理由も、ICPを絞るための重要なインサイトになる
  • アポではなく、顧客が喜んで使い続ける状態からGTMを逆算する
この記事の目次技術の課題と、顧客が買う課題は違う最初の仮説が外れたのではなく、粗すぎた電話で深い課題を聞き出そうとしない商談化の基準は、課題の存在ではなく「嬉しさ」LTVから逆算すると、アポの意味が変わる最初に整理すべきは、メリットとベネフィット

匂いを検知して、可視化するサービスを扱ったことがあります。

最初に考えたのは、薬品や部品をつくる工場、それからビル管理会社でした。異常な匂いを検知できる。しかも、目に見えないものをデータとして見えるようにできる。社長からその話を聞いたとき、これは工場やビルの設備管理に売れるだろうと思いました。

今振り返ると、僕たちは「技術として面白い」と「顧客が今すぐ解決したい」を混同していました。

2、3か月営業して、受注に至ったのは1件。エンタープライズ向けだったので、アポイントを取るまでにも時間がかかります。アポイントの先にある有効商談はさらに少ない。半年ほど経ったところで、契約が終わったお客さんもいました。

この経験から、僕はGTMを考えるときの順番をかなり変えました。

アポが取れるかではない。売れたあとに、お客さんが喜んで使い続けてくれるか。そこから逆算して、誰に、何を、どんな順番で届けるかを決める。これがGTMの出発点だと思っています。

技術の課題と、顧客が買う課題は違う

匂いの検知には、たしかに用途がありました。異臭の発生を早く知りたい現場はあります。設備の状態を人の感覚だけに頼らず、データで見たいという考えも理解できます。

ただ、設備管理の現場に話を聞きに行くと、反応は思ったほど強くありませんでした。

「そういうことは、たしかにあります。ただ、そこまで頻繁に起きる業務ではないんですよね」

この反応が何度も返ってきました。

ビル管理の現場では、入居者が異臭に気づけば、まず管理会社に連絡が来ます。匂いだけで設備の劣化を事前に検知するのは難しい。しかも、設備点検で月に一度は現場へ行く。どうせ行くのであれば、そのときに確認すればいい。わざわざ検知システムに予算をつけるほどの困りごとではありませんでした。

ここで大事なのは、課題が存在しなかったわけではないことです。課題はある。でも、頻度が低い。損失が小さい。既存の運用で代替できる。だから、顧客にとって優先順位が上がらない。

技術の説明を聞いて「面白いですね」と言ってもらえることと、「これならお金を払ってでも使いたい」と言ってもらえることの間には、かなり距離があります。

図は横にスクロールして読めます

図1:技術課題から顧客課題へ

GTMで確認すべきなのは、左側の「できる」ではなく、右側の「使い続けたい」までつながっているかです。

最初の仮説が外れたのではなく、粗すぎた

当時、僕たちは一応ターゲットを考えていました。工場、薬品メーカー、部品メーカー、ビル管理会社。異常な匂いが問題になりそうな業界を並べ、そこへアプローチしていました。

ただ、業界名で止まっていました。

本来は、同じ工場でも、どの工程の、誰が、どの頻度で、何を困っているのかまで分けなければいけない。匂いが出る可能性がある工場と、匂いによる停止やクレームが経営課題になっている工場は違います。

「匂いを検知したい会社」という括りは、営業リストをつくるには便利です。でも、顧客が買う理由をつくるには粗すぎる。

僕が今なら、最初に次の4つを仮説として書きます。

  1. 誰が困っているのか
  2. どの業務のどの場面で困っているのか
  3. 今は何で代替しているのか
  4. 解決できたら何がどれくらい良くなるのか

この4つを業務プロセスごとに分解します。検知という機能を売るのではなく、巡回、記録、異常対応、報告、再発防止のどこを変えるのかを考える。

Notionの議事録を読み返していても、新規事業は顧客課題の検証と解決策の検証を分けた方がいいという話が何度も出てきます。いきなりプロダクトの機能を売り込むのではなく、まず顧客が本当に困っているのかを確かめる。その後で、つくった解決策が使われるのかを確かめる。

順番を飛ばすと、営業活動がプロダクトの検証になってしまいます。

電話で深い課題を聞き出そうとしない

電話でできることには限界があります。

短い時間の中で、相手の業務プロセス、発生頻度、損失、社内の意思決定まで聞き切るのは難しい。だから、電話の役割を「課題を全部聞くこと」に置かない方がいいと思っています。

電話で見るのは、仮説に対する反応があるかどうかです。

「こういう業務上の課題はありませんか」と投げたときに、相手が自分の言葉で具体的な状況を話してくれるか。「それなら、うちでは月に何回起きています」「今はこの方法で対応しています」と会話が前に進むか。

その反応があれば、商談に持ち込みます。商談では、電話で得た情報を前提に、より具体的な質問をする。そこで得た回答をもとに、次の提案を変える。

電話、商談、提案、振り返りを一つのループとして回していくイメージです。

図は横にスクロールして読めます

顧客仮説を更新する検証ループ

このとき、商談化しなかった企業も捨てない。なぜ商談にならなかったのかを残します。

「業務の頻度が低い」 「既存の点検で足りている」 「解決したときのメリットが小さい」 「予算を持つ担当者が別にいる」

こうした理由が積み上がると、ターゲットから外す根拠になります。NGを記録することは、勝ち筋を狭めるための調査です。

商談化の基準は、課題の存在ではなく「嬉しさ」

僕が初回商談に進めるかを判断するとき、具体的な金額やROIを聞けるなら聞きます。ただ、最初から数字だけを握ろうとしているわけではありません。

一番見ているのは、仮説が実現したときに、相手がどれくらい嬉しいのかです。

課題とニーズが合っているか。こちらの訴求が当たったとき、本当に業務が変わるのか。相手が具体的な情報を出してくれるか。ここでイエスが取れないまま、商談数だけを増やしても意味がありません。

逆に、相手が「それができるなら、今の運用を変えたい」と話し始めたら、まだ金額が決まっていなくても前に進める価値があります。数字はその後に詰めればいい。

もちろん、最終的には費用対効果が必要です。ただ、数字をつくる前に、数字をつくるだけの嬉しさがあるかを確かめる。ここを飛ばさないことが大切です。

LTVから逆算すると、アポの意味が変わる

アポ獲得をKPIにすると、話を聞いてくれそうな会社を広く取る方向に流れます。

その結果、本来は合わない顧客を受注してしまうことがあります。受注直後は売上になりますが、使われない。成果が出ない。担当者が疲弊する。最終的には解約になり、顧客にも自社にも良くない体験が残ります。

だから、見るべきはアポ数だけではありません。

図は横にスクロールして読めます

アポからLTVまでの顧客価値とミスマッチ受注の分岐

アポは入口です。GTMのゴールは、顧客が成果を感じ、使い続け、周囲にも勧めたくなる状態をつくることです。

この視点に立つと、KPIも変わります。初期はアポ数だけでなく、仮説に対して具体的な反応が返ってきた割合、商談で得られたインサイトの数、次の検証に進めた割合を見る。受注後は利用頻度、成果実感、継続意向を見る。

エンタープライズでは、導入までに時間がかかります。拠点や部署を一気に広げるのではなく、まず小さく導入して、成果を確認し、横展開する。その前提を顧客と握らずに、半年後の売上だけを約束すると、期待値がずれてしまいます。

最初に整理すべきは、メリットとベネフィット

明日から一つだけやるなら、営業リストをつくる前に、プロダクトの価値を一枚に整理してみてください。

「何ができるか」はメリットです。

「それによって顧客の業務や経営がどう変わるか」がベネフィットです。

匂いを検知できる。これはメリットです。巡回回数を減らせる、異常対応の初動を早められる、設備停止やクレームの損失を減らせる。ここまでつながって、初めてベネフィットになります。

ただし、ベネフィットは顧客ごとに変わります。月次点検がある会社なら巡回回数の削減は響かないかもしれない。異臭クレームが月に何度も起きる会社なら、初動の早さが大きな価値になるかもしれない。

だから、業界ではなく業務で切る。機能ではなく、変化で語る。アポではなく、継続利用から逆算する。

これが、僕が匂い検知サービスの経験から学んだGTMの基本です。

売れる会社を探すのではなく、売れたあとに喜んで使い続けてくれる会社を探す。そのために、仮説を置き、会話で確かめ、合わない相手を丁寧に外していく。

GTMは、売り方の話だけではありません。誰のどんな挑戦を、どんな価値で前に進めるのかを決める仕事です。

まずは、自社のプロダクトについて「どの業界の、どの業務を行う人の、どんな課題を解決するものなのか」を書いてみてください。そして、メリットとベネフィットを分けて説明できるかを確認する。

そこが曖昧なまま営業を始めると、アポは増えても、勝ち筋は見えてきません。

このナレッジを AIと使う

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このファイルでつくれるもの

  • 記事の要点に沿った現状整理
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  • 担当者・期限・判断条件を含む実行計画

ChatGPTやClaudeなどにファイルを添付し、自分の状況を伝えてください。対話しながら具体的なアウトプットをつくれます。

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無料・登録不要 / 更新 2026-09-07
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